【ビジネス秘録】「海外進出を検討せよ」

目次

【ビジネス秘録】「海外進出を検討せよ」——素人が2週間で市場調査を完遂した記録

経営や事業運営をしていると、突如として「未知の領域」への挑戦を求められることがあります。

かつて電機メーカーに勤めていた際、畑違いの「通信機器の海外販売」というミッションを、短い時間で形にした実話をお伝えします。

新規事業の構想や、市場リサーチの進め方に悩む方のヒントになれば幸いです。


1. 突然のミッション:2週間で「解」を出せ

ある日、事業部長から「他部署の通信機器を海外で販売できないか、検討してほしい」と相談を受けました。
国内では利益が出ているが、さらなる成長のために海外の可能性を探りたいとのこと。

当時の私は海外販売の担当ではありましたが、その機器に関しては全くの素人。
しかし、「2週間」という限られた期限で私に声がかかったのには理由があるはずだ。
そう直感し、即座に調査を開始しました。

2. 「ビジネスの骨組み」を定義する

調査を始める前に、まずビジネスの全体像(前提条件)を整理しました。

  • 誰に?:複数拠点を持つ海外の大手企業。
  • どんな価値を?:拠点間の電話・データ通信の統合。
  • どうやって届ける?:自社の海外現地法人をチャネルにする。
  • 売った後は?:保守サービスの提供と、現地法人を通じた継続収入。
  • 誰と組む?:国内の開発部門と、海外の現地法人。

この「構造」をあらかじめ定義したことで、調べるべき項目が明確になりました。

3. 海外市場の「本当の姿」を可視化する

国内ビジネスを主戦場とする人々は、往々にして「海外」を巨大な一つの塊と考えがちです。
そこで、まず「海外の市場規模の現実」を数字で突きつけることにしました。

当時はネット検索も未発達。
そこで書店へ走り、経済誌のデータを元に、人口やGDPを日本の地方自治体と比較する表を作成しました。

  • 台湾九州(人口・GDPともにほぼ同規模)
  • シンガポール兵庫県(人口)・神奈川県(GDP)

「海外進出」と聞くと、市場が何倍にも膨らむ錯覚に陥りますが、実際には「日本の県レベルの市場」が点在しているのが現実です。
この視点の提示は、社内に大きなインパクトを与えました。

4. 現場の「生の声」と「最新レポート」を掴む

机上の空論で終わらせないため、二つのアクションを起こしました。

① 海外ネットワークの活用
香港、台湾、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、メキシコ、ブラジルなど、世界各地の現地法人へ直接打診しました。
「新しい機器を扱う際、サポートしてくれるか?」という問いに、過去の信頼関係から皆が「協力する」と回答してくれました。

② 一次情報の入手
本社の海外営業部門を訪ね、4年に一度発行される高価な英文調査レポートを拝見しました。
「まだ封も開けていない」という最新のレポートを目の前で開封してもらい、市場規模、市場の動向、競合ベンダーのシェア、出荷台数、中心価格帯を精査しました。

5. 原価と「販売仕様」を割り出す

さらに、開発元から「部品構成表」を取り寄せ、中身を分析しました。
特別な部品は使われておらず、コストの大きなところが外注品(キャビネットやPC)であることが判明。
ここから逆算して「海外で勝負できる販売価格」を想定しました。
同時に、マニュアルの翻訳や英語表示への変更など、最低限必要な「海外仕様化」の費用も算出しました。

6. 結論と、4年後の評価

ターゲット、提供価値、販売チャネル、保守体制、競合状況、そして収支構造。
これらを一気にまとめ上げ、新規市場開拓のロードマップとして提出しました。

結果として、この時は「海外販売は行わない」という判断が下されました。
市場の現実と、進出コストを天秤にかけた上での、冷静な経営判断です。

このレポートの真の評価を知ったのは、提出から4年も経ってからのことでした。
その事業部長の友人から、「あの時のレポートは、海外市場を知る上で本当に素晴らしい機会だったと言っていたよ」と聞かされたのです。


7. 視点を変えれば「道」が見える

この経験から学んだのは、素人であっても「視点を変え、構造を捉え、現場の声を繋ぐ」ことができれば、短期間で本質的な戦略を描けるということです。

変化の激しい現代、今の業務にどう取り組むべきか。
時には自分の視点から離れ、「世界の中での自社の立ち位置」を俯瞰してみてはいかがでしょうか。


この記事を書いた人

目次